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家族計画(絆箱)

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Einschätzung

シナリオ=S|グラフィック=C|キャラ=A|音楽=B|総合評価=A

Überblick

はじめに

古いゲームですから、システム周りがよくないのはKanonと同様で仕方ないんですよね。音楽はOP、ED共にI'veサウンドですから問題なし、というより非常にいいです。ディスクレス起動ができないのは相変わらず痛いです。

プレイしたのは「絆箱」の方で、こちらは声が入っています。無印の方をプレイしたことがないので違いがよくわかりませんが、シナリオそのものに追加や変更はないようです。

相互扶助計画

どこかに傷を負った無関係な人たちが集まって、相互に助け合う家族を偽る。そこに夢や希望なんてあるはずもありません。あくまでも「相互扶助計画」であって、理想的な人間関係を築くことが目的ではないのですから。

そしてその「相互扶助計画」であるという点を見事に描ききったシナリオが、様々なところで高い評価を得ていることに繋がるのでしょう。主人公はもちろん、家族の中で最も甘えている末莉ですら末娘らしい(というより、最少年っぽいというべきか)子供のようなことを言いながらも、その根底には彼女の背景を考えれば当然のことですが、どこか醒めた目で現実を見ており、その冷静に現実を捉えることを心が受け入れきれないという葛藤が末莉シナリオの中心になっているように思えました。

現実と虚構

これが長女の「高屋敷青葉」次女の「高屋敷準」、三女の「高屋敷春花」、母親の「高屋敷真純」になるともっと顕著で、特に青葉と準は最後まで甘い夢想を信じず辛い現実への視線を外すことはありません。この2人はそのことを隠そうともしませんが、それでいて実は最も現実から逃避して理想的な家族生活を送りたいと夢を見ているのかも知れません。そんな希望が叶うことなどないと自分に言い聞かせないと心が折れてしまうから、人間が弱いものだと知っているから、敢えて「家族計画」という虚構に埋もれてしまうことを否定し、現実の社会、今までの生活、環境との繋がりを断とうとしないのではないか、と思います。

その点、春花は「家族計画」がすぐに崩れる砂上の楼閣であるとわかっていながらも、司や末莉のために「家族」を演じる。そしてその、虚構を演じているということすら春花の性質の一部であって、彼女自身が偽っているという意識を持っていないのは奇跡のようにも思えます。だからこそ、彼女にとっては青葉や準のように、現実に背を向けていないのだと自分に言い聞かせる必要がなく、最後までああして明るく笑っていられた。そして司も、そんな春花のことがわかっていたから、中国に送還されても春花のことを諦めることができなかったのでしょう。

末莉と真純は非常に良く似ているように見えて実は全く異なる存在のようです。末莉は、わかっていながら、そのわかっている自分が辛くて許せなくて葛藤してしまう。対して真純は彼女自身が認めたように「弱い人間だから」「家族計画に浸りきって」しまう。その点では、この「相互扶助計画」で最も成長したのは真純なのかも知れません。末莉は結局、重ねた歴史の割には背負わされた環境と人生が重過ぎて、本当は受け入れられるだけの度量を持っているんでしょうけれども、心にその余裕がなさ過ぎた。その余裕を「家族計画」の中で育てようとしたのではないかと思います。誰よりもこの計画に固執した末莉にとって、「家族計画」=「猶予期における揺らぎを固定させるための安全地帯」であることを認めていたのではないでしょうか。

結末

準のおかげで現実性を非常に高められた「高屋敷家」に、権利が彼らの手に渡って全員が仲良くなり、ハッピーエンドというエンディングがあってはいけません。「計画」はその端緒から、これは末莉の姿勢そのものでしょうけれども、「問題を解決するまでの間に助け合って暮らすための『相互扶助計画』」なのですから。

だから、誰1人として高屋敷家に残らなかったのは正しいエンディングではないかと思われます。何事かのハプニングをきっかけとしていることもまた、彼らにとっての高屋敷家の存在の意味を考えれば仕方ないことかも知れません。微温湯から離れるのに自分だけの力をもってするには、あまりにも膨大な精神力を必要としますから、現実から目を逸らすことのなかった彼らにとってもなにかしら外部の要因がなければいけなかったのでしょう。

明るい結末とは言えません。つまり、ベストではありません。なぜなら現実の社会において最良の結果を得られる人間など一握りもいないのですから。だから、「ゲームは現実逃避のためにプレイしている」という人にとって(私もそうですが)は、あまりやりたいゲームではありません。

プレイする価値

ただ、それでもプレイする価値は十分にあり、それはもう昨今の芥川賞や直木賞受賞作家の甘ったるくて上辺だけの言葉で修辞された、何を読んでも同じにしか思えない小説に500円も支払うくらいだったら、「家族計画」に数倍のお金をかけた方が良いでしょう。……生産終了してますので、中古屋でどうぞ。

Empfehlung

お勧め

上述したように、ゲームにほのぼのさや現実を忘れさせてくれる一瞬を求めている人にはあまりお勧めできません。また、逆に現実的すぎる人にも却って毒になる気がします。

そのように両極端でなければ、とりあえずプレイする価値はある、と断言できます。

推奨攻略順

難しいんですよね。末莉が最後なのは確実なので、

真純→青葉→準→春花→末莉

と、年齢順にプレイすることをお勧めします。