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ゆのはな

ゆのはな

Einschätzung

シナリオ=A|グラフィック=A|キャラ=A|音楽=A|総合評価=A

Überblick

はじめに

これは、おとぎばなし。

大人のための、おとぎばなしです。

当たり前のことを当たり前のこととして縛られながら生きていかなくてはならない、大人のためのおとぎばなし。だから、現実が、この世界が諦念で覆われていると感じる人にこそ、強くプレイすることをお勧めしたいです。

雪国、小さな町の商店街での人々との交流。「賽銭おねだりADV」と銘打たれた割には、ドタバタコメディも確かにありますが、実は考えさせられることがあったり攻略ヒロイン以外の人たちとの交流が多かったり、実にお得なゲームだと思います。……もちろん、賽銭もおねだりされますがw

ディスクレス起動は可能ですが、オートモードでの非アクティブ時動作は不可です。ここは何とかして欲しいなあ。

立絵・表情ともに豊富でBGMもしっかり場面に合ったものが使われていますので、雰囲気は非常に良かったです。イベントCGはそれほど多いとは思わなかったかな。デフォルメされた絵が多かったからかも知れませんが。

主人公やヒロイン、町の人々

主人公はおバカな大学生。ゆのはに上手く操られてしまうほどおバカですが、ヘタレてはいません。締めるとこはちゃんと締める、好感の持てる主人公です。ヒロインたちは「わかば」「椿」「穂波」「ゆのは」の4人。ほのぼの天然系の「わかば」がお勧め。「穂波」はエロエロ小娘、「椿」はシナリオそのものはあまり印象に残っていません。「ゆのは」はメインの神様。後述しますが、このゆのはの他シナリオでの傍若無人さを許せるかどうかが、ゲームを最後までプレイできるかどうかの鍵になっているような気がします。

サブキャラとして立絵があるのは、わかばの祖母「みつ枝」、椿の祖父「渋蔵」、穂波の母「榛名」、町で唯一の電気屋の青年「尚樹」、わかばの親友で強力無双な「由真」の5人。それ以外でも町の人々は色々絡んできます。

この、サブキャラたちの活躍が「ゆのはな」の魅力ですね。この町の人たちの参加がなければ本当に鄙び『過ぎた』ゆのはな町になっていたと思いますが、彼らが日常やイベントに絡んでくることでリアルに鄙びた温泉街の雰囲気を表現できたのだと思います。テキストだけで「人情味のある商店街」だと書かれても、ああそう、で終りですが、うだうだと書かずに実際に人々を絡ませることで説明せずに雰囲気を表現することに成功しています。

また、サブキャラたちのキャラ立ても上手い。みつ枝はわかばの祖母らしく、渋蔵と椿の血縁関係も納得、榛名は攻略対象にして欲しいほどだし、ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦を熱く語る尚樹に、最も出番の多い由真は、わかばにラブラブで暴走機関車っぷりが面白い。主人公の拓也もそうですが、細かいところを説明することで、物語全体にリアリティを持たせています。キャラクターや背景の設定がしっかりなされているってことですね。キャラが自然に動いているというのは、小説やアニメなどを含めてもなかなか存在しませんから、貴重なゲームと言えるでしょう。

シナリオ

基本的には働いて日銭を得、それをゆのはに奉納(というか巻き上げられ)、そんな日常生活の繰り返しの中に各ヒロインとのイベントがあって、少しずつ惹かれあっていくというのが核です。

わかばでは町を出ることと家族、椿では小説と自分の才能、穂波は少し変わっていて物語の根っこに関わる民間伝承に関わり、ゆのはは勿論ゆのはな町の神様ですからクリア制御順で最後の最後、ゆのはな町の雪、そして遥か昔にあった死と、それに続く呪い。

神様が関わる話であるのに、彼らが自力で乗り越えていく様が好感をもてました。ていうか、神様が何ていっても守銭奴ゆのは、ですから神頼みなんてできっこないんですけどねw

ゆのは

選択肢なしの最後の話です。ゆのはというキャラクター自体は非常に稀有な存在で、ギャルゲで小さな神様と言えば想像できるような、あ〜んなことやこ〜んなことは一切体現していません。最初っから最後まで守銭奴一直線、善良な町の老人たちからすら何の罪悪感も感じずに騙して搾り取る。そこに嫌悪感を抱くと、もうダメでしょうね。わかばシナリオなどでは、わかばと拓也を自分のことを見向きもしなくなった子供たちに、いると思い込んでいる孫夫婦なんだ、と自分に嘘をついて心の平穏を保とうとしている老婦人からも、騙し取ります。そのことに憤慨した拓也に、

「拓也は今、あの老人に見せた夢の、責任を取る覚悟がありますか?」
「あの老人の夢を、誠に出来るとしたら、そのための労力を払う決意がありますか?」

ある、と誓う拓也に対し、ゆのはは老人に偽りの記憶を植え付ける。「ゆのはな町で、草津拓也と伊東わかばに親切にしてもらった」という偽りの記憶。いるはずのない孫夫婦という幻想ではなく、偽りの真実を。

「この町に、自分を心配してくれる人間が、確実に二人はいるという事実は、どんなものより励みになるでしょう」
「偽りの孫に親切にして貰った記憶より。実在する人間に親切にされた記憶の方が、あの老人にとっては幸せだと思うのです」

老人とそんなに深く関わったわけではない、と嘘の破綻を心配する拓也に、ゆのはは「これから何度も会い」深めていけばいいと言う。何度も会いに行く、それがたとえ数ヶ月に一度であっても、赤の他人のために継続する労力というものは大変なもので、だからゆのはは拓也に「誓約できるか」と尋ねた。

これこそが神様というものでしょう。何の代償もなく願い事を聞いてくれるのは仏様であって、日本の土着信仰、或いは各国各地域の神様というのは本来無制限に請願を受け付けるものではないはずだし、また世界宗教にしてみても、神の威力というのは効能や救済を主とするものではなく、未来を信じさせるために現世での生を戒めなければならないということが根底にある。神は無邪気に「ただ願いをかなえてくれる」存在ではなく、「願いを叶えるために己を律する」きっかけに過ぎない。

「ゆのはな」は単なるギャルゲではありません。こんなことを、一連の軽いギャグの中でさらりとゆのはに言わせてしまう、シナリオライターの底力を見たような気がします。

それでもこれはお伽話であり、ひとつの幻想。どこかで現実の生活への警鐘を鳴らしながらも、それでもその本質は「おとぎばなし」にあります。だから「ゆのはな」シナリオがご都合主義でもいいんです。

それとも神様と言うヤツが本当にいて、気まぐれでイキな計らいをいしてくたのかも知れない。
だけど、それは神ならぬ身の俺たちには、わかりようもないコトだ。
でも、そんなコトは大したコトじゃない。
たぶん、これはおとぎ話。
そして、おとぎ話よりも幸せな、本当の話。
小さな神様の話は、もうおしまい。
これからは、一人の女の子の話をしよう。

拓也とゆのは、2人がどこにいてどこに行くのか、果たして彼らはゆのはな町へ戻ることがあったのか、それもどうでもいいこと。ここで終わるのが正しい姿なのでしょう。

そしてみんな、幸せに暮らしました。

おとぎばなしに理屈はいらないし、科学的実証なんてもっての他。だって「ゆのはな」は様々な現代の戒律の中でもがいている、都合のいいことを夢見ながらも、どこかでこれは幻想だと諦めなければならない大人のための、おとぎ話なんですから。

S評価でない理由

非常に残念なのは、シナリオが少し冗長に感じること。毎朝、拓也が起床した時の掛け声や奉納などは少しうざったく感じます。それらのエフェクトを切っていないと尚更。

また、ゆのはシナリオが短すぎたのも残念。他ヒロインと同じくらいとは言わないまでも、もう少し掘り下げてもらいたかった、というのが正直なところです。

Empfehlung

お勧め

心温まる話……でもほなみんでエロは満足できるので(笑)、一挙両得を求める人に。ほのぼのとした田舎町での人情味溢れる話、という点ではこれ以上のゲームは見たことありません。

仕事で疲れ、そろそろ大学卒業時に抱いていた、会社への幻想が崩れ始めたあなたに。どうですか?w

推奨攻略順

ゆのははシナリオ制御がかかっていますので最後です。穂波シナリオが微妙にかすりますので、最後に回した方がいいか、と。

椿→わかば→穂波→ゆのは

わかばはかなりいい子なので、先に椿を攻略しておいては?