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爆発・四散するゲキガンガー。

きっとその最後の光なのであろう、明るい一点をぼやけていく視界の隅で認めながら、アキトの意識は薄れていった。

機動戦艦ナデシコ - Blank of 2weeks -

約束の日

規則正しい機械音が響く、白い部屋。
中央のベッドで、アキトは眠っていた。

「容態は?」
「健康状態に異常は認められません。長距離のボソンジャンプによる肉体的・精神的疲労で昏睡状態ですが、まもなく意識も回復するかと思われます」
「では、目が覚めたらもう一度健康をチェックし、第五会議室へ連れて来るように」
「わかりました」

スーツ姿の男が病室から出て行くと、白衣の女性は視線をアキトに戻した。
「……目覚めることと目覚めないこと、どちらが彼にとっての幸せなのかしらね」
「は?」
傍でモニタを確認していた助手が、彼女の言葉に反応する。
彼女はその聞き返しに応じるでも応じないでもないように、独り言のように続けた。。
「人類初の生身でのボソンジャンプ、しかもあの大質量を伴っての成功例。これから彼を、どんな運命が待ち受けているのかしら」
助手の言葉はない。
彼もまた、聞き入るでも聞き流すでもなくモニタを見つめている。
女医は、アキトの額にかかった髪をそっとかきあげ、
「モルモットとしての人生か、それとも……」
「それはないんじゃないでしょうか」
モニタを見つめたまま、助手が答える。
「そう?」
「今はシャクヤクの建造で手一杯のようですから。ボソンジャンプについては本社の方が気にしていますが、ここではあまり」
「耳聡いのね」
「いえ、そういうわけでは……。博士が無頓着すぎるんですよ」
ここで初めて彼女は頬を緩ませる。
「既に報告は行ってるでしょうが、でうですかね。本社自体ではボソンジャンプ研究を行なっていないようですし」
「彼をここで預かるわけにはいかないのかしら?」
「そうですねえ……、まあ結局、本社の決定次第ですから」
どんなに耳聡くとも、一介の医療助手ではそれ以上のことはわからない。

「博士、こんなことを言うのは何ですが……」
躊躇いがちに口を開く。
女性は視線をアキトから逸らさずに答えた。
「わかっているわ。あくまで調査・研究の対象。それでいいんでしょ?」
「はい」

(問題は本社がどれくらい彼の調査を要求するのか、だわね)
ベッドで眠り続けるアキトに、ネルガルの社運を左右する運命が含まれている。
それが彼自身の命運をも左右するのか、彼女にはわからなかった。

「……とりあえず、目を覚ますまではここにいて貰える?私はちょっと出るわ」
「わかりました」
何処へ何をしに、それは問わずに、助手は視線をちらと向けると頷いた。
「じゃ、お願いね」

エアの音が軽く響き、医務室は機械音とアキトの規則正しい寝息だけで満たされた。

10,Dec;混迷

≪あとがき≫
短っ!
まあ、この後2週間分ありますから。ね?(汗