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ToHeart2 - シルファ名作劇場 〜白雪姫編〜

書いたひと。ADZ

 昔々、とある国にスノーホワイトと呼ばれるそれは美しいお姫様がいたとかなんとか。
 原典だと七歳だったり十歳だったりするお姫様ですが、物によっては十代後半だったりしますしここではそれに準拠した年齢と言うことにしておきます。
 ある日の事、その国の王妃、これも実母だったり継母だったりまちまちですがここでは継母として、その王妃様が魔法の鏡に向かって尋ねました。

「この国で一番プリティで愛らしく素敵で貴明にふさわしいメイドロボ、じゃなかった。女性はだーれ?」

 桜色の髪で胸の大きいミルファ王妃の問いに、魔法の鏡の中に映るドクロをディフォルメしたような髪留めをつけた少女が何故か饅頭食べながら答えます。

「それは今回の話の都合上、シルファ姫なんよ」

 話の都合上って何? と思いつつもミルファ王妃は手下の一人の猟師に、シルファ姫を森に連れて行き息の根を止めそのバッテリーを持ち帰るよう命じました。

「るー。そういう事なので死んでもらう」

 そこで実際に死なれては話が終わってしまいますので、姫を不憫に思った猟師ルーシーは谷越え山越え川越え自作トラップ越えて、森の奥地にシルファ姫を置き去りにすることにしました。

「……なんれ森の奥地に向かうのに谷や山を越えてしまうのれすか? それに罠がたくさんあったのれすよ」

 気にしてはいけない。

 そして猟師ルーシーは命令遂行の証として、シルファ姫のバッテリーの代わりに途中でHMX−12の試作バッテリーを入手し、それを王妃に献上したのでした。

 さて置き去りにされて途方にくれるシルファ姫。そこはいかにサテライトシステムでの通信機能を持ったセリオであっても通信不可能なぐらいに磁場の影響が強い森の奥地。
 セリオほどの通信システムを積み込まれてはいないシルファでは帰り道がわかりません。
 ネットワークのアクセスポイントでもあれば別なのかもしれませんが。

「突っ込みどころ満載だなおい。ここは富士の樹海かどこかか? まあそれはいい。へい、そこの彼女。良かったら俺んちに来るがいい。家事を頼むぜ♪」

 木の上からかけられる声。そちらへと視線を転じて見上げてみれば、とき色というか薄いピンクというか、そんな色をした髪をなびかせ腕組みした少女が見下ろしていて、シルファ姫に向けて告げました。

「俺の名はまーりゃん。この森に住む七人の小人の一人さ」

 身にまとうマントをなびかせ木の枝から降り立ち、軽い調子で自己紹介を始めるまーりゃん。

「シルファなのれす。ごねたり疑問に思っても仕方が無いのれ付いて行くのれすよ」

 身も蓋も無い事言いつつ歩き出す二人。

「ところでよー。俺のほかの小人、見なかったか? 一人帰りが遅くてな、探していたらしーりゃんに出会ったのだよ」

 地雷原やネットトラップ、果ては降り注ぐ竹槍のトラップを乗り越え、二人は道すがら素性を語り合ったのでした。

「それはつまり……このこのの事れすか」
「こらこら、まだ会ってない人間の名前を出すんじゃない。まあ確かにこのみんなのだがね」
「まあそこでネットトラップに引っかかって宙吊りになっているのれすけろね」
「助けて欲しいでありますよ〜」
「おおっ!?」

 とかくそんなこんなで小人達の家に向かうのでした。

 小人達の家に到着、シルファ姫は他の小人たちにも暖かく迎え入れられました。
 まーりゃんとこのみ、珊瑚と瑠璃、ちゃると菜々子。
 夕飯の支度をする瑠璃とそれを手伝う菜々子、自室で何か組み立てている珊瑚、お好み焼きに使う鉄板の手入れをするちゃる。
 そんな家の中をこのみに案内されて、洗い場やお風呂などの位置を覚えていくシルファでした。

「間取り覚えたらしっかりと働いてくれよチミ!」
「なんれこの人らけ何もせずにソファれふんぞり返っているのれすかこのこの」
「……まーりゃん先輩に何かしてもらうと、なんでか大騒ぎになるでありますよ」

 なるほろ、と納得して気にしないことにしたシルファである。

「ところれ七人の小人なのに六人しかいないようなのれすけろ?」
「いやぁ、もう一人は隣国のヒロちゃんとこに嫁いじまってな。はわわでドジ属性全開な娘だったがきっと幸せにやっていると思うZE☆」

 はぁ、と気の抜けた返事を返しつつ、シルファは見上げる星空に幸せそうな緑色の髪をした小柄な少女の幻影を見るのでした。

「ろこから突っ込めば良いのやら、れす」

 さてシルファが小人達の家で過ごし、一年が過ぎました。
 この一年の間にシルファ姫の存命を知ったミルファ王妃は、当然嘘をついた猟師ルーシーを罰しようともしましたがその住処はすでにもぬけのから。
 その足取りはまったく掴めませんでした。
 躍起になりルーシーを見つけ出そうとしていた王妃ですが、ふと今は反逆者の粛清よりもまずシルファの息の根を止める事が優先だと思いなおし、何人もの暗殺者を送り込みシルファ姫の抹殺を目論見ました。
ですがその全てはことごとく失敗に終わってしまいます。

「おお、大漁大漁。身包み剥いで街道にでも捨ててくるかw」

 森に張り巡らされたトラップに引っかかり全てを失うもの。

「お嬢に近づく不届き者は誰であっても容赦しねぇっ!」

 どこに潜んでいるのかまったくの不明な、ちゃるの守護者に阻まれ地獄を見るもの。

「瑠璃さまの貞操は私のものですよ……ふふふふふふふ」

 木の陰から怪しく目を光らせているメイドロボの手で闇に葬られたもの。
 様々な障害によって暗殺者から守られ、シルファ姫は平穏に暮らす事ができたのでした。

 さて王妃はこのままでは落ち着いて夜も眠れないと、自らの手で直接シルファ姫を亡き者とする事にしました。
 ミルファ王妃は懇意にしている商人を使い毒を取り寄せ、用意しておいたある物にその毒を仕込むと変装をして小人達の森に向かいました。
 森には前述の通りトラップが張り巡らされていましたが、そこは高性能なカスタムタイプのメイドロボ、難無く乗り越え小人達の家にたどり着きます。
 事前の調査でこの日は小人達は全て出払い、家にいるのはシルファ姫だけになっているはずと確認済み。
 ちゃるはこのみを連れて近くの都市で開催される夏冬年二回最大規模の自費出版書籍販売会の為に、珊瑚と瑠璃は隣国の技術博に、菜々子とまーりゃんはとある人物の所に遊びに出かけてしまっているのです。
 すでに炊事洗濯を終えて暇をしていたシルファ姫、のんびりとソファに座り本など読んでみたり。
 窓から覗き込みシルファ姫だけであることを確認すると、ミルファ王妃は正面玄関に回りこみドアのノックして声をかけるのでした。

「オイシイタコヤキハイカガデスカー、ヤキタテアツアツ、トテモオイシイデース」

 似非外人な片言っぽくたこ焼き売りを装う王妃。
 外から聞こえる呼びかけに気づき、シルファ姫は特に警戒もせず扉を開いてしまいました。
 フードを目深にかぶり人相がわからないようにしている不審人物相手に、人生経験の浅い彼女は特に気にすることもなく話に乗ってしまいます。

「ドウデスカオッジョウサン。オイシイオイシイタコヤキデース。タメシニヒトツタベテミテクダサーイ」

 ある種外国人への偏見ではないかと言いたくなるぐらいの口調。
 そして知らない人から物をもらってはいけませんとは教育されていなかったシルファ姫は、差し出されたたこ焼き一パックを手にとってしまいます。
 表面から湯気の立ち昇る焼きたてらしきたこ焼き。どうやって保温していたのか気になりますが、きっとこの作者は魔法の籠に入れてき たんだなどと言って誤魔化す気なのでしょう。
 それはそれですでに焼きたてではないはずですがスルーしましょう。
 渡された爪楊枝をたこ焼きの一つに突き刺し、シルファ姫はその口の中に放り込むのでした。

「チェストーっ!」

 するとなんということでしょうか、その瞬間を狙いタコヤキ売りに扮したミルファ王妃は掌底繰り出し、シルファ姫の顎を真下から打ち上げてしまったのです。
 シルファ姫はその勢いで口に含んでいたたこ焼きを喉に詰まらせてしまい、窒息して気を失ってしまいました。

「我、拳を極めしもの……なんちゃって♪」

 天の文字を背に浮かべて突っ込みどころに困る寝言を口にしながら、ミルファ王妃はその場を立ち去るのでした。

 そして数時間が過ぎ、まずはちゃるとこのみが帰宅しました。戦利品の詰まった紙袋を両手に吊り下げていた二人は玄関で倒れているシルファに気づき介抱を始めます。
 しかし外傷もなく脈もない、息もしていないシルファ相手にどうすればいいのかわからず途方にくれてしまいました。
 続けて珊瑚と瑠璃も帰宅してきましたが、彼女らにも何もできませんでした。

「これが本編の話やったら、うちがどうとでもできるんやけどなぁ〜」
「メタな発言禁止やでさんちゃん。そもそも喉に詰まらせて失神なんて事自体がありえん事になるで」
「それもそうやな〜」

 突っ込みに困る会話は無視するとして。
 しばらく時間が過ぎ、まーりゃんと菜々子も帰宅して来ました。

「なんでこんな所まで連れてこられたんですか俺っ!?」
「気にするなっ! 今日は泊まってけたかりゃんっ!」

 貴明王子を連れて。

「ああくそっ! 雄二の奴がやたら引き止めてた時に気付くべきだった! タマ姉もなんでか眼を合わせてくれなかったし! この人が遊びに来る予定だったなんてっ!!」
「まあまあ気にするな。新しい使用人が欲しいと言う願い、俺様にかかれば万事解決、うちの連中何人かつれてけ」


 そう、まーりゃんと菜々子の二人が遊びに行ったのは隣国の向坂城だったのです。
 そして向坂家の環王女と雄二王子の幼馴染であり、ある事情により即戦力になりそうな使用人の都合がつかないかと相談に訪れていた隣国の貴明王子を拉致し、ここまで連れてきたのでした。
 実に説明的ですね。

「ところで先輩。先輩の家がなにやら騒がしいですけど」
「いつもの事だ。騒がしくも楽しい我が家だZE☆」
「その語尾についての突っ込みは保留しときます」

 はてさてのんきな会話もそこそこに扉を開く三人。
 そしてその目の前に広がるリビングにはカーペットの上に寝かせられたシルファ姫と、その周りを囲む余人の小人たちの姿がありました。
 いったい何があったのかと貴明は四人に尋ね、もうすでに息をしていないという言葉に天を仰ぎどうしたものかと頭を悩ませました。

「……こうなったらキスやで、たかあき」
「はい?」

 自国に戻り医者を呼ぶか、いや時間たちすぎてるから手遅れか。そうすると葬儀屋か?
 などと自問自答を繰り返していた貴明の耳に珊瑚の声が届きます。

「これはお約束、世界の真理、大宇宙の意思なんや!! 眠り続けるヒロインの目覚めは王子様のキスと相場が決まっとるんや!」
「何を言い出すかなこの子はっ!?」
「さんちゃんの言うことがきけん言うんかこのすけべっ!」
「なんで俺は瑠璃ちゃんに怒られてるのっ!? それとなんですけべなんですかーーー!」
「たかりゃんよ、二人の言うとおりだっ! 濃いのぶちゅぅっとかましてこの話を結末に導け! さあハリーハリーハリーっ!!」
「た、たか君。このみは何も見ないでいるであります。タマお姉ちゃんには黙っているでありますよっ!」
「裏切ったなっ! 雄二と同じで俺の都合とか立場を裏切ったなこのみっ!」
「……」
「菜々子ちゃんも期待に満ちた目でこっち見ないっ!」

 相も変わらず騒がしい連中である。
 さてこのような攻防が二十分ほど続いた後。
 結局貴明が頑なに拒みシルファ姫はキスをしてはもらえませんでした。
 ですが小人たちの努力によって無事に蘇生を果たしたのです。

「ぴひゃっ!?」
「イチ、ニ、サン、ダーっ!」

 その小さな身体を天井すれすれまで舞い上がらせて繰り出した、まーりゃんのフライングボディプレスによって。
 のどに詰まっていた毒入りたこ焼きを吐き出して咳き込んでいるシルファ姫。
 そのすぐそばで片腕を天に突き声を上げているまーりゃん。
 まーりゃんに声援を送る小人たちと頭を抱えている貴明。
 なんともほのぼのとして牧歌的光景ですね? 表現が間違っているという異論は認めます。
 かくして無事息を吹き返したシルファ姫は、貴明王子に気付きほんのりその頬を染めました。
 騒ぎも落ち着き何故貴明がいるのかという話になり、今度何人か新しくお城に雇い入れる事になって、と言う内容を嘘大げさ紛らわしい脚色つきでまーりゃんが説明したのでした。
 当然貴明君は横から故意に間違えている箇所など訂正していましたのですよ?

「シ、シルファを連れて行って欲しいのれすよっ!!」

 はてさて一目出会ったその日から、恋の花咲くこともある。
 なんということでしょう、シルファ姫は貴明王子に一目惚れをおこしていて、話を聞き終わるとすぐさまあなたについて行きますと言い出すのでした。

「たかりゃんよ、我が家の家事はほぼしーりゃんがこなしとる。能力的には問題なしだっ! ついでに俺たち全員ついてくから安心しろ」

 安心できる要素はどこだ? と思うも渡りに船、どの道何人か新たに雇い入れるのなら顔見知りの方がいいかと快諾しました。
 シルファの視線の意味なんてまったく理解しないで。

 そして数週間が過ぎました。

 その日その城では貴明王子の結婚式が行われ、厨房は式に出す料理のためにてんやわいやの大騒ぎでした。

「納得いかないのれすよ」

 そしてそのその厨房では、包丁が閃き鍋が噴出しかまどが火を吐くなかで、一人の少女が手を休めることなく呟きます。

「納得いかねーのれす」
「五番テーブルのチキン運び終わったでありますよっ! 菜々子ちゃんは七番テーブルにコップ運んでくださいっ! ちゃるはお酒とかをお願いっ!」
「わかりましたー」
「了解した」
「納得が、い、か、ねー、のれすよっ!」
「いいから生ハムとっとと切り分け、シルファ」

 厨房で働くシルファ姫の魂の叫びは黙殺されるのでした。

「なんれれすかなんれれすかこの話は白雪姫のはずれはなかったのれすか? なのにろーしてシルファと王子様が結ばれて終わらないのれすかっ!」
「まあしゃーないやろ。そもそも使用人が必要になったんは他所の姫さん嫁にもらうから人手が必要になった、なんやから」

 この日の結婚式は、貴明王子と隣国のツンデレラと名高い郁乃姫のものだったのです。

「作者はシルファをおこらせたー!!」
「いやいくのん狂いのこの作者だし、こんなもんだろう」

 メタな発言禁止。
 とかくそんなまーりゃんの慰めの言葉も空しく、シルファの心を吹き抜けます。

「うううう、ヒロインなのに、ヒロインのはずらったのにろうしてこんな……」
「しーりゃんも大変だな。よーし今日は俺のおごりで朝まで飲み明かそうぜ。マスター! 彼女にハイオク満タンで」
「誰がマスターや。ここは厨房であってパブでも喫茶店でもないで。そしてそもそもそないなもん置いとらんわ」
「えーと、シルファはガソリンれ動いているわけれはないのれすけろ」

 兎に角こうして、平和に過ごすシルファ姫なのでした。
 めでたし、めでたし。

「めでたくないわよっ! ひきこもり妹が邪魔できないようにしてから貴明ゲット♪ のつもりだったのになんでこうなってるのよっ!」

 会場の片隅で地団駄を踏むミルファ王妃もいたりしますが気にしない気にしない。

 それではこれにておしまいです。

終われ。

ADZの言い繕い。

 まずはシルファファンの方々にごめんなさい。

 最初は『夏影』後の貴明たちの学園祭の演目として書き始めたとか、この後シンデレラや人魚姫の話になって、などと色々と構想していましたけどここで終わりと言うことで。
 由真がマウンテンバイクでカボチャの馬車ひっぱったり会場を何故かダンボールかぶって気づかれないようにうろつくシンデレラとか。
 脚を与える変わりに声を要求するのが某来栖川のお嬢様だったりお城では最強決定戦開催中で今まさに貴明の嫁さんが腕力知略で勝ち進んだ環か卑怯・強引・とんでもで勝ち進むまーりゃんのどちらかに決まりかけてたりとかな人魚姫とか。
 ……なんじゃそりゃと自分の脳みそが心配になると同時に読みたい気もしてくるのはなぜでしょう。執筆の予定はありませんのでご了承ください。


 ではまた、いつの日にか。

comment そんなわけで、ADZさんから頂いた、初のシルファ メイン のSSでした。

突っ込みどころ多すぎw
いちいち突っ込んでいくとSS本編と同じくらいの長さになりそうですが、
> 「チェストーっ!」
ここで思わず噴いたw あるもの(=タコヤキ)に毒を入れたはいいけど、それを食わせるんじゃなくて喉につまらせるためだったとは……なら、最初から毒入れる必要ないじゃんw
でもなんか、そこがミルファっぽいからOK。

あのADZさんが? シルファSS? と、いくのん至上主義者がシルファのSSなんてどうやって書いたのだろうなんてワクテカしながら届いたファイルを開けてみたら、最後の最後で郁乃でしたねw
まあ、そりゃそうだよなあ……ADZさんだもんなあ、と納得してしまったのもどうなのか、と。いやでも、ADZさんですしねぇ。
……シルファは納得いかないようですがw

ADZさんへの感想や励ましなどは、
nao-sあとyel.m-net.ne.jp
へどぞー。