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ただ彼を想い続けることだけが、私のすべて。

夢の逢瀬が、私の希望。

それだけでよかった。
あの人に再び出会うまでは。

あの夏の墓地で再会するまでは・・・。

機動戦艦ナデシコ - Forget me not(01)

夜が明ける。

連合宇宙軍少佐、ホシノ・ルリはカーテンの隙間から零れる朝日に目を細めた。
凡そ女性の部屋に似つかわしくない、厚い飾り気のないカーテンが、彼女の意図した働きを見せていない。

「・・・何時?」
誰もいない部屋で、つい呟く。
答えの代わりに、耳をつんざく目覚ましの音。

思わず顔を顰め、だがそれで頭がはっきりしたのか、彼女の白い手が正確に目覚ましの位置を捉えその息の根を止めた。

腕を引っ込めようともせず、そのままぼうっと。
低血圧の彼女には、珍しく目覚ましの前に起きたのだが、やはり無理があったようだ。
「どうして・・・」
目が覚めたんだろう、ぼやけた頭で考えてみようとしてルリは言葉を呑み込んだ。

わかっている。

あの人の夢を見たからだ。
はっきり覚えてはいないけれど、未だ痺れたような感覚が残っている。
下腹部が痺れている。
頭がぼんやりしているのは、寝起きのためだけではなかったようだ。
少し気持ち悪くなった下着の感覚に、ルリは独り顔を赤らめる。

「・・・・・・ばか」

2202年、冬の朝はこうして明けた。

「私が、ですか?」
広い執務室に、ルリのそれでも落ち着いた声が広がる。

「そうだ。少佐ならもう既に突き止めているのではないかね?」
対する声も、冷静に彼女の言葉に返す。
連合宇宙軍本部ビル23階。
最上階執務室の主は、当然のことながらミスマル・コウイチロウ総司令である。
その大きな体躯を更に大きな椅子に沈め、口調も穏やかに問う。
「我々としては、いや、私としてはもう彼には関わりたくない。もう十分だろう。
彼も我々も十分辛い思いをしてきた。お互いに、解放されてもいいんじゃないのかね?」
疑問形だが、聞いているのではない。
ルリはそれには答えず、沈黙を保った。

彼——テンカワ・アキトは、未だ軍や治安警察の網にかかっていない。
かと言って、火星の後継者の残党を狩るでもなく、その消息を完全に絶ってしまっている。
宇宙軍も手を尽くして探していたのだが、その行方は杳として知れない。
一年が過ぎて最近ではマスコミで取り上げられることもなくなり、この際、治安警察との合同捜査も中止にすることになっている。

軍の威信としては捕縛したいのだが、如何せん、ネルガルですらその行方を知らないのではどうにもならない。

「残党の逮捕、殲滅も最終段階に入っている。既に航路は安全宣言が出されて、マスコミのネタにもならなくなった。もう、終りにしてもいいと思うのだよ」
「そう簡単に風化しますか?世論もそれほど甘くないと思います」
「もちろん、捜査は続ける。だが、もうこれ以上は本気で彼を追おうとはせんよ。軍も警察もな」
その自信あり気な言い方からして、既に手は打ったということだろう。

「知っていたら、どうなんですか」
奇妙な沈黙が流れた後、おもむろに口を開く。
わかってはいる。

ただの確認。

「・・・ユリカは会わんよ」
コウイチロウの声が、重く響く。

予想された答え。
そして、言葉。

「洗脳、ですか」
それには答えない。
けれど。

(沈黙は消極的な肯定、ですね・・・)

それ以上、ルリは追求するつもりはなかった。
だから、ただ、

「では、退官いたします」

理由があったわけじゃなかった。
ただ、今は何もかも忘れたかっただけだ。

アキトは小さく溜息をつく。
短い間だったけれど、家として暮らしたナデシコ。
復讐の道具ではあったが、それも居場所のひとつだったユーチャリス。
全ては、もう無い。

彼の手に残ったものと言えば、五感は辛うじて生活できる程度に戻った体と、桃色の髪をした妖精だけ。
そして、今こうして自分の姿すら失って。

自嘲気味にそっと笑うと、アキトは自分の身体を眺める。
色素の落ちた髪、治療で痩せた身体、変えたDNAパターン。
別人、という程ではないが、市井に紛れて暮らせるくらいの。
ネルガルが最後にアキトに与えてくれたものだ。

それは、いい。
アキト自身がどうなっていようと。
ただ。

傍らで眠る、妖精だけは。
成長期の大事な時期を、被験体、戦場と過ごした少女に人としての暮らしを。

・・・それもおかしなことかも知れない。
ラピスのため、そう言ってエリナやアカツキに預けようとした自分が、結局こうしてラピスの寝息に安らぎを覚えている。
「・・・自分が、寂しかっただけか」
つまるところ、自分なのだ。
ラピスを突き放すことを決心できなかった自分。
復讐にすりかえた自分。

さっきまでアキトの膝の上でTVゲームをしていた妖精の髪を梳く。
窓から射し込む冬の陽射しが、狭い部屋を隅々まで満たす。
透けるような肌と、煌く髪が彼を少し感傷的にした。

楽しかった、何も考えずに楽しく暮らせた日々。
・・・戻らない日々。

だが、そんな考えをすぐに頭から追いやると、アキトは再び思考の海に沈みこんだ。

火星の後継者など、どうでも良かった。
ただ、ユリカを助け、ヤマサキを殺したかっただけだ。
そしてそれは全て果たされた。

『へえ?君かあ』
人畜無害な表情を崩さず、笑みさえその顔に貼り付けていた。
『どうやってここまで・・・って、それは愚問だったね。まあ、最高傑作ではあったよ』

この身体が、か。

そう言いそうになって、辛うじて堪えた。
こいつの言うことにいちいち反応などしてやるものか。
ばかばかしいが、そんな子供っぽい考えになっている自分に気付いて、薄く笑みを延ばした。
『どうしたんだい?』

何への疑問かはわからない。
ただ、最期の言葉にくらいは答えてやってもいいだろう。
『・・・嬉しいのさ』
『そうか。いや、実はね、僕もそうさ。こんな湿っぽいとこで実験も研究もできないからね。君を待っていたよ』

くだらない虚勢かも知れない。
けれど、その時のアキトには、それが彼の本心であろうことが何となくわかった。

『じゃ、頼んだよ』
そう言ってアキトに背を向ける。
それが最期の言葉だった。

結局。
自分も同じだったのかも知れない。

復讐のために他人に手をかけることを厭わなかった自分と、研究のためにアキトをこんな身体にしたヤマサキと。
どこが違うというのだろう。

ユリカを助けるため、人類の発展のため、どちらも同じだ。
言い訳で欺いているだけ。
お題目を掲げたところで、人殺しは人殺しに過ぎない。
いつか、『ユリカを助ける』が『復讐の名の下に人を殺す』に変わっていることに、気付かない自分でもない。
だからと言って、それを悔やんでいるわけでもない。
小さな田舎町の、外れに立つアパートでアキトは小さく呟く。

「そんなところが・・・変ったんだろうな」
「変ってませんよ」
「?!」

突然聞こえてきた声に、驚いて振り返る。

「ルリちゃん・・・」

そこには、見慣れた少女が立っていた。
いや、もう少女とは呼べないかも知れないし、見慣れた姿でもない。

「どうして・・・」
驚きか、喜びか。
アキト自身にも判断がつかず、ただ口篭もる。

「鍵、かかってませんでしたよ?」
そんなアキトの様子を無視して、ルリは何気ない様子で言う。
「それとも、どうしてここがわかったか、ですか?」

「愚問、なんだな?」
「はい」
平静なルリの様子に、少し落ち着いたアキトの問い掛け。
ルリも、数年前を思い出させるような口調で答える。

「上がっていいですか」
ワンルームでは、部屋のドアが空いていれば玄関から素通しである。
ルリは玄関に立ったまま聞いた。

無言で頷いたアキトに、
「じゃあ、失礼します」
そう言って靴を脱ぎ、きちんと揃える。
(ルリちゃんは・・・変ったな)
何でもないことに、奇妙な感じを覚えてアキトは心中で呟いた。
ミナトの躾だろうか、以前3人で暮らしていた頃はそういったことには無頓着だった。
アキトも、ルリもユリカも。

「ラピス・・・寝ているんですか」
傍に来て、アキトの差し出したクッションに腰を降ろしたルリがラピスの寝顔を覗き込む。
「ああ。まあ、こうなったらちょっとやそっとじゃ起きないさ」
「そうですか。可愛いものですね」
ルリの言葉に、アキトが目を大きくする。
「そんなに変ですか」
「え・・・あ、いや。変ったな、ルリちゃんは」
そう言って改めて視線を投げる。

最後に会ったのは一年前。
火星で、彼の戦いに終止符を打つ時だった。
それでも、ノイズ混じりのウィンドウ越しに、会話はなかった。
正対して言葉を交わしたのは、墓地でが最後だ。
あれから、ルリのことは極力考えないようにしてきた。
自分には、ラピスを守って生きて行くことしかできない。
それは大事なことではあるけれど、彼自身の人生にとっては、決して前向きなことではない。
いや、アキト自身はそのことに不満はないし、それでいいと思っている。
けれど、それはアキトだけのことであって、世間的に見ればネガティブな生活であるだろう。

ここでもきれいごとを言えば、そんな人生に、誰も巻き込みたくなかった。

ナデシコクルーとはあれから一度も会っていない。
ユリカも、救出した後、熱病から覚めたように会う気も失せてしまっていた。
彼らの動向も、まったくわからないし、調べようともしなかった。
が、ルリだけは違った。

『調べてるわよ。かなり強引に、ね』
そう教えてくれたのはエリナだったか。
電子の妖精と言えど、ネルガルの全勢力を傾けて隠蔽した秘密を暴くことは容易くない。

『私たちがばらさない限り、あなたの行方が知られることはないわ。ただ・・・』
『わかっている。もう2度とお前たちの前に現れることもない』
『悪いわね。さすがに軍や議会の査問を、知ってて通り抜けられる自信はないのよ』
『ああ。世話になった』

それでも見つけてしまったのだ、アキトとラピスを。
彼女の能力が上だったのか。
それとも、想い出に対する執着か。

どうとも判別がつかないまま、目の前に再び現れた少女を見つめる。

「何ですか、アキトさん」
さすがに遠慮のないアキトの視線に耐えられず、ルリがもじもじと身体を動かす。
「・・・変わったな」
そんな仕草も、アキトの知るルリではない。
「私ももう、18ですから」
答えになっているのかどうか。
そのことを気にするゆとりは2人にはなかった。

「取り敢えず、貸してごらん」
アキトが手を差し伸べる。
ルリは入る時に脱いだコートを渡した。
片手で受け取ったアキトは、空いている手で器用にラピスを抱え上げると、窓際のベッドへ運ぶ。

そっと、労わるように横たえ、毛布を掛けると鴨居からハンガーを外し、コートをかけた。

「いい部屋ですね」
「そうか。家賃が安いだけが取り得だけどな」
白いハイネックの襟に触れながら、ルリは改めて部屋を見回した。

質素。
でなければ、簡素か。
必要なもの以外、何も置いていない部屋。
広さだけは十分にありそうだ。
恐らく、12畳くらいはあるだろう。

大きな窓が南に向かい、その傍らにベッド。
反対の壁面にはスクリーンとAV機器が埋め込まれている。
真中に楕円形のローテーブルを置き、さっきまでラピスが飲んでいたのだろう、マグカップからはまだ湯気が薄く昇っている。

ルリの視線を追っていたアキトが、マグカップを取って台所へ向かう。
開け放したドアの向こうにはキッチンとユニット、そして洗濯機と玄関。
料理をしながらでも洗濯ができそうだ。

「何か飲むかい?」
洗いながらケトルを火にかける。
「コーヒーをお願いします」
「そうか・・・もう、ミルクにしておけなんて言える年じゃないな」
「アキトさんの中では・・・いつまでも子供のままなんですね」
少し批難の混じった口調に、苦笑いをする。
「はは、変ったって・・・」
苦笑を止めて、
「・・・いや、そうかもな。君はいつまでも3人で暮らしていた頃の・・・いや、ナデシコの頃のままなのかも知れないな」
「そうですか」
ルリの声に、けれど暗い響きはない。
「俺にとって・・・君は楽しかった日々の象徴だったのかも知れない。
そう、ナデシコに居た頃が一番楽しかった・・・」
「じゃあ、あの1年は何だったんですか?」
ルリの語調が少し荒くなる。
けれども、回想に耽っているアキトはそれに気付かなかった。

「あれは・・・夢だよ。俺がもう手にすることのできない・・・」
ケトルが軽く音を立て始める。
「少しの間、幸せな夢を見ていたんだ・・・」
「甘ったれないで下さいっ!」
ピーッと激しい音ともに、ルリが声を荒げた。

驚いて振り向いたアキトの目に、怒りを露にしたルリが映る。
「そうやって逃げて。それは、あなた1人の記憶ならいいかも知れません。
こうしてラピスと一緒に、昔を懐かしんで朽ちていけば。楽しかった想い出を夢と言い張って。
だけど、あの想い出は・・・」
金の瞳を伏せる。

沸騰を知らせる音が、室内に響き渡り。

「あなただけのものではありませんっ!」

「・・・アキ、ト・・?」
大きな声と音で、目を覚ましたラピスが、ベッドの上で目を擦っている。
「あ、ああ・・ラピス。何でもないんだ」
「・・・・ルリ?」
「はい、ラピス。お邪魔してます」
妙な会話だが、この部屋にそれを気にする余裕のある者はラピスだけだ。
だが、そのラピスは寝起きで頭が回っていないようである。
「うん。・・・寝る」
恐らく寝起きでなくとも、ルリの存在をそれほど気にしなかったかも知れない。
そのままことん、と横になると、再び可愛らしい寝息を立て始める。

「ごめん、ルリちゃん・・・」
火を止めて、ラピスの毛布を掛け直してやると、アキトは口を開いた。
「つい、懐かしくなってしまったのかも知れないな。君の気持ちを考えずに、話し過ぎたようだ。・・・悪かった」
こちらを見て軽く頭を下げるアキトに、ルリはつい横を向いてしまう。
「いえ。私も言い過ぎたようです」
そのままテーブルを挟んで、気まずい沈黙が流れる。

(いけませんね。私が興奮しては)
別にアキトを連れ戻しに来た訳でも、捕縛しに来た訳でもない。
既にルリは連合軍を退官している。
逮捕権など、あろうはずもなかった。

火星で別れてから。
いや、それ以前からルリはアキトを追いかけたりしなかった。

ユリカに遠慮している。
そうかも知れない。
よくわからない人間。
ナデシコを飛ばした時も、引き取られた時も。
いや、それ以前からユリカはルリにとって理解できない人間だった。
行動に一貫性がなく、それでいて大事な局面では迷った風もない。
本人は迷っているのかも知れない。
木連へ和平交渉に行く時はそうだった。
けれど、それは一時の迷いと言うべき程度で、根本ではその行動に疑問を持っていなかった。

それはわかる。
艦長としては、迷いながら戦艦を運用して欲しくはない。
だからそれで良かったのだ。
けれども、それが持続しないのはどういうことなのか。
或いは、揺れていることに本人も気付いていないのか。

不思議な人間、それがルリにとってのユリカ。

ただ、引き取ってくれたことには感謝はしている。
だからと言って、
『ね、私のことお姉さんって呼んでいいよ』
それはできなかったが。
感謝はしているし、別段嫌いな人間ではない。
けれど、それだけだ。
だから、アキトを追わなかった理由はそこにはない。

(怖かった、でしょうね。きっと)
そう、怖かった。
変ってしまったアキトのもう一度向き合うのは。
再会してしまった以上、アキトのことを忘れることはできなかった。
『あのまま死んだ人でいてくれればよかったのに・・・』
つい、そう思ったこともある。
あの日以来。
辛くて眠れない夜が、幾夜あったことか。

生きていた。

それだけで、ルリの心はもう軍での生活の中になかった。
任務中も休暇中も、常にその心の中心にアキトがいたのだ。
我ながら単純だと、そうも思う。
あのまま再会していなければ、

(無理、ですね・・・)
完全に忘れ去ることができたか。
それこそ愚問だろう。
3人で生活していた時の思い出の品は、手元に無い。
あるのは。

ただ、一葉の写真。

『2197/07/07』
テニシアン島の直後のブリッジ前通路。

『え?そうなの?』
『はい。それが?』
『いや、それが?って・・・う〜ん・・・』
『どうした、アキト』
『あ、セイヤさん。いや実は、今日ルリちゃんの誕生日らしいんっすよ』
『なに?!そりゃ大変だ!で、お前は何をぼさっとしてんだよ』
『あ、だから、どうしようかな、と・・・』
『ばか野郎、そうだな・・・おし!まずは記念写真だ!』
『は?』

唯一の、2人で写った写真。
その後、ブリッジから出てきたクルー達と集合写真も撮ったが。
その一葉だけを、大事に持ち続けている。

だからきっと、あのまま会わなくても、彼女はアキトを忘れなかったろう。
あの頃のアキトを。
(だから・・・怖かったんですね、私)
ルリが好きだったのは、ナデシコでのアキト。
何かに怯えながらも、何かになりたくて足掻いていたアキト。
それが最初はユリカと同様、不思議な生物であるかのように思っていた。

「ルリちゃん」

(でも、それが私にないものだったから・・・惹かれたんでしょうか・・・)

「ルリちゃん」

(きっかけなんてそんなものなのかも知れませんね。気付いたら好きになっていた・・・)
「ルリちゃんっ」
「えっ?」
沈黙をいいことに沈思していたルリは、アキトの声に驚いて顔を上げた。

「考え事?」
「あ・・・」
「ん?」

懐かしい感じがした。
the prince of darknessではなく、テンカワ・アキトの声。
あの頃のような、問い掛け方。

アキトは黙ってルリを見つめている。

「何だか、昔のアキトさんみたいでした。今の話し方」
「そうか?」
「そんな時、『そうかな』とか、『そうかい』って言ってましたよ」
アキトは苦笑する。
「よく覚えてるね。人のこと」
「それは」
アキトさん、あなただからです。
そう言いかけて、また黙り込む。

けれど、ルリの知っているアキトの片鱗を見て、不思議と恐怖は薄れていった。
「アキトさんはやっぱり変っていません」
「・・・そうか、な」
無理やり喋り方を変えるアキト。
一瞬、目を合わせるとどちらかともなく笑みが零れる。

「くすくす・・・そんなところが、変ってませんよ」
「そうかな・・・そうかもね」

(やっぱりアキトさんはアキトさんです。私の大好きな)
ひとしきり笑った後、アキトはラピスを窺いながら言った。
「ルリちゃん、ここじゃラピスがいるから・・・ちょっと出ようか」
「・・・はい」

穏やかな冬の午後。
柔らかな陽射しの溢れる部屋で、ルリは全身で変らないアキトを感じていた。