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「まったくあいつときたら、人のこと勝手に名前で呼んでるし。来いなんて言った覚えもないのに毎日毎日飽きもせずやってくるし。だいたいなれなれしい……って、なに」
憤慨しながら口を動かしていたから気づかなかった。
何やら姉が微笑ましげに、というよりにやつきながらこちらを見ていることに。
「ううん。郁乃、楽しそうだな、って」
「なっ?!ばっ、何バカなこと言ってるのよ。楽しいわけなんてないじゃない」
「そう?なんか、とても楽しそうに見えたんだけど」
「はあっ?!私より姉貴の方が入院した方がいいんじゃないの」
ダメだ。どんどん話題が外れていく。
そう思いつつ、郁乃も愛佳も、2人とも修正しようがなかった。というより、愛佳にとってみればわかってはいたもののこの流れはとても都合が良かった。

こんなに饒舌になるなんて、愛佳1人で世話をしに通っていた時にはなかったことだ。
必要なことだけを受け答えし、しかもその殆どは愛佳が1人で話し続けていることに対して相槌を打ったり「いらない」とか「勝手にすれば」とか、そんな言葉が返ってくる会話とも言えないような会話をするだけだったのだから。
だからもう、郁乃の気持ちなんてはっきりとわかってしまった。

「ね、郁乃」
怒っているのか照れているのか、恐らく自分でもよくわかっていないであろう郁乃が顔を赤くしながら一息入れたところで愛佳が口を開く。

「郁乃もたかあきくんのこと、好きなんだね」

実際のところ、改めて考える必要などないのだ、と思う。
雄二に呆れられるのも仕方がない。答えなんて最初から出ているのだし、それ以外に彼がとりうる態度なんてあり得ないのだから。……そんなに器用じゃない、というのが理由であることが情けないけれども。

郁乃が愛佳の妹で、愛佳が郁乃の姉で、そして彼は河野貴明という家族でも何でもない存在で。たまたま姉と同じクラスになり、偶然の積み重ねから幾つかの秘密を共有するようになり、果てしなく蓋然性の低い事象の発現により病院へ通うようになり。
そんなくどい言い回しをしなくたって、つまりはこういうことなのだ。
あと6日あれば髪の毛の中に隠された数字を探してしまいそうな高校の全出席日数の中で、ある登校途中に出会った今まで見たこともない猫に、ワンと鳴かれてしまうというくらいの蓋然性の低さであった、と言えば明瞭でわかりやすいのだろう、きっと。

彼と彼女たちとは、無関係に近い他人。だった。
何の因果か知り合いになり、病院に通い、多少は心を開いてもらって、それと同時に姉の方ともそれなりに親しく会話をするようにはなった。
ただそれだけだ。
ただそれだけなのだから、何も悩む必要はない。
郁乃が退院したら、愛佳とは単なるクラスメイトに戻り、郁乃は更にその妹というだけの関係になる。そして彼女たちにとっての貴明もまた、単なるクラスメイトと、顔見知りという程度の姉のクラスメイトという立場に戻るのだ。
そう、どちらにしてもその関係に「戻る」。
はて、と貴明は考える。「戻る」ということは、戻る前があるわけで。ではその期間はいったいどういう関係だと言えるのだろうか。それはまさに今この瞬間もその期間に含まれるのだし、ならば今の自分は答えることができるのではなかろうか。
なのに答えられない。なぜというに、彼の思い起こせる彼らの今の関係は、戻った後と何ら変わりないとしか思えなかったから。いや、そうだとしか想像できなかったから。
と、言うことはつまりアレか。
俺と愛佳と郁乃、3人の関係なんてその程度のものでしかないってことか。
何のことはない、やっぱりただのクラスメイトとその妹である。それならば、「戻る」わけではないのだろうか。そう思うのだけれども、そこで引っかかる。はっきりと「そうだ」と言えない。いや、言いたくない自分がいることがわかる。

ならば、と貴明は質問を変えてみる。
今とこれからの関係の違いがわからないのであれば、これからどういう関係になりたいと思っているのか、と。
そしてこの答えがあっさりと出てしまったことは、彼を更に悩ませることになるのだ。
これからどういう関係に「なりたいと」思っているのか。彼女「たち」と。

……その質問と、考えまいとしてもあっさりと出てしまう彼自身の答えゆえに。

素直になるとか、正直な気持ちってほんと難しいと思う。

小牧郁乃は真剣な表情の後ろで、そんなことをぼんやりと考えていた。
それが対人関係になればなおさらだ。
正直に相対したからと言って、相手が納得するとは限らないし、素直に受け入れたからと言ってそれがハッピーエンドに繋がるとも限らない。
今相手が正直に言って欲しいと思っていて、そして自分が素直になった、そんな双方の態勢が合意していなければ「素直」とか「正直」とか言う言葉がポジティブな動作と結果を作り出すことはないんじゃないだろうか。
そしてそんなタイミングって言うのは、実際のところそれほど多くはないような気がする。
もちろん、郁乃の数少ない社会経験からの推測でしかないのだけれど。

「私は、たかあきくんの正直な気持ちを知りたい」
だから今、その稀有なタイミングがこの場で展開され、それどころか自分がその当事者になっているというのはとても貴重な経験であるように思う。

目の前にいる彼は、最初驚いたように目を見開いていたが、その言葉に押されて俯く。
自分のその「正直な気持ち」を言葉にまとめようとしているのか、それとも今さっき郁乃が考えていたように、素直に言っていいものかどうかを判断しようとしているのか。
いずれにしてもそんな猶予期間はそれほど与えられなかったし、彼もまた、格別に長い時間を必要ともしなかった。

「たかあき、くん……」
今ひとたび自分を呼ぶ声に、彼は顔を上げる。
それは、曖昧で浮ついた色が完全に排除された大人の表情だ、と郁乃は思った。
だからもう自分が何かを言う必要はなかったかも知れない。けれど自然に、彼の名が郁乃の口をついて出ていた。

「……貴明」
声に何かが含まれていないだろうか。なぜか郁乃は場違いなことを思った。

そして彼がゆっくりと口を開く。
「俺は……」

「んなっ?!」
「? なんか、コントしてるみたいな驚き方だねぇ、郁乃」
衝撃的なことを口走っておきながら、言った本人はのほほんとしている。言われて驚き慌てる郁乃との対比がきっと、客観的に見てれば面白いんだなあなんて思っていることからもそれは明らかだ。
「は……はぁっ?! 何言ってるのよ、どうして私があんな」
「でも、たかあきくんの話をしている時の郁乃って、私が見たことのない表情もするんだな、って思っちゃったの」
被せるように、言い募る郁乃へ返す。変な言い方になってしまったけれど、きっと彼女には理解できるだろう。愛佳のその考えの通りに、郁乃は黙り込んで顔を伏せた。

なんだろうか、この気持ちは。
姉にしてやられた感じがして悔しいのか。それとも、図星をつかれて驚いているのか。
どちらもそうであるような気がするし、どちらも違うような気もする。
だいたい、何だその短絡的な思考は。そんな程度の推測であんなやつを好きなんだと断定されてしまうほど、この小牧郁乃は単純ではない。そもそも、姉に見せないような表情を、あいつに見せるはずがないではないか。

そりゃ、確かに姉には辛く当たってきたから、心から笑って見せることなんてなかった。
……あいつの幼馴染の話が面白くて、大笑いしちゃったことはあったけど。

姉に心配はかけさせまいと、辛いことを顔に出したことはなかった。
……あいつの前で、ついうっかり気が抜けて、そんな表情をして心配されたことはあったけど。

いやいやいや、違うのだ、これはそういうことではなくって。
家族と単なる置物程度のやつでは、対応が違って当然なのだ。そう、家族だからこそ色々こっちも考えちゃって、対応にも気を遣ったりもするし。置物ならそんなことは気にしないから、どんな表情でもできる……って、あれ?

やっぱり混乱する郁乃。
そんな郁乃を見ながら、愛佳もまた複雑な気持ちではあった。
郁乃がどんなに自分に辛く当たろうが、それは彼女なりの優しさからなんだとわかっていた。いや、わかるようになった。そうなるまでに随分長い時間をかけてしまったけれど。そんなに時間をかけてしまったことが、姉としては情けなさも感じてしまうのも事実なのだが。
きっかけは何だったろう。はっきりとは思い出せないが、大雑把な言い方をすれば「貴明と郁乃の関係」なのだと思う。正確には、貴明と郁乃の関係を傍から眺めていて、となるかも知れない。

あまり両親と一緒にこの病室に来ることはなかった。
愛佳が平日の放課後に、両親は主に休日に、という役割分担的なものがあったせいもあるが、とにかく彼女は妹と2人でこの部屋にいることが多かったのだ。だから妹から向けられる刺々しい言動を直接受け止めなければならなかった。そのことを客観的に捉える余裕がなかった。
受け流すことも、その意味や奥に隠された真意に気づくこともできず、妹のためと言いながらも、結局は自分の心の安定のためであることに気づいては自己嫌悪に陥る。そのことがまた郁乃の気遣いを引き出してしまい、不器用な彼女の妹はそれを姉に対してつっけんどんになることでしか表せない。
姉妹はそんなことをもうずっと、この四角く白い病室で繰り返してきた。
転機が訪れたのは、河野貴明の来訪。
彼が毎日訪れてくれることで、彼女の妹の話し相手になってくれることでようやく愛佳は自分達の関係を外から落ち着いて眺めることができるようになった。
郁乃の怜悧さが優しさの裏返しであること。
自分の自己嫌悪の原因が、本当に自分のためであるのかどうか。

もし彼が、初対面での郁乃の言動に怒って二度とこの病室へ足を運ばなかったとしたら、今までと同じように気づかないままだったかも知れない。これほど足繁く通ってくれたのは彼だけだったのだ。由真を連れて来たこともあったけれど、郁乃は無難な対応に終始していたし、由真もまた同様だった。友人を縛る家の事情も理解していたから、その後の見舞いは謝絶していたし彼女もそんな愛佳を押してまで訪問しようとはしなかった。
通学する日数が極端に少ない郁乃だったから、籍を置いているとは言っても学校の友だちが訪ねてくることは数えるほどしかない。はっきり言えば、年に1回だけだ。各学年に進級して、そのクラスの委員長が形式的に見舞いに来るだけ。
そんな彼らに郁乃が貴明にとったような態度で接するはずもない。
当たり障りのない会話を数言交わして終了。
その後はまた一人、いや愛佳と2人の病室が364日間続く。

たまたま貴明だったのだろうか、そんなことも考えてみる。
恐らく、いやきっと違う。

—— 郁乃がああいうヤツだってこと、それがあいつの一面でしかないってことに俺が気づいて怒らないってこと、愛佳にはお見通しだったんだろ?でなきゃ、わかってて連れて来るわけがないもんな

図らずも彼が指摘した通り、愛佳は無意識のうちに彼を選んでいたのだ。
書庫を手伝ってもらったから、買い物に付き合ってもらったから、たまたま病室へ寄る時に彼が一緒だったから、という偶然の積み重なりでもあったかも知れないけれど、それらは単純にそのまま彼を郁乃に会わせる理由にはならないのだから。
書庫の手伝いは強く断れば断れたはずだし、買い物も同様。途中で病室に寄らなければならない強い理由はなかったし、その後の見舞いだって「家庭の事情」をちらつかせれば彼のことだ、心配しながらも無理に来ようとはしなかったに違いない。
そう、だから愛佳は、彼を選んだのだ。
他でもない河野貴明を、妹の郁乃に会わせたいと思い、一緒に来て欲しいと望んだ。
彼に書庫を手伝ってもらいたいと思い、秘密の場所を共有したいと思い、少しでも長く彼といたいと願った。
だからこれは必然。いや、意思によるもの。
彼の代わりに例えば、たまたま郁乃のクラスの委員長が義務感からか他の心情によるものか、とにかく貴明のように足繁く通ったからと言って、自分や郁乃は変わっただろうか。

愛佳はベッドで赤くなったり頭を振ったり、奇行に走り出した郁乃を見つめる。
「あたしね」
言葉を発した姉を見上げる。まだ瞳には混乱の色が残っていたが、構わず愛佳は続けた。
「あたし、たかあきくんが好き。たかあきくんだったから変われたし、郁乃の気持ちにも気付けたんだと思うの。だから」
郁乃は口を挟まなかった。そのことがまた、自分たち姉妹の距離が近くなった証拠のような気がして愛佳は微笑む。そう、今までだったら絶対に、「私の何がわかるって言うのよ」と返ってくる場面だったのだから。
「だから、本当は郁乃に気づかれたくなかったかな」
「……どうしてよ」
「だって、郁乃も自分の気持ちに気づいちゃうでしょ。そうしたら姉妹で取り合わなきゃならなくなっちゃうじゃない」
「可愛い妹に譲ろうって気はないわけね」
ぷい、と横を向きながら郁乃が答える。もう諦めたらしい。愛佳が考えている間にも郁乃は葛藤しつつ、というよりも妙な踊りにも見える行動を取りながらも自分の気持ちが整理できたようだ。初めて気がついた、のかも知れないけれど。
「お姉ちゃん今までね、郁乃のためになら何でもしてあげようと思ってた。でも、ダメ。たかあきくんだけは譲れない」
いつもの姉に似つかわしくない、強い語尾で言い切った愛佳に驚いて郁乃が顔を戻す。彼女の視界に入った姉は、微笑みながらも毅然とした態度でこちらを向いていた。
「ばっかじゃないの」
「え?」
「ばっかじゃないのか、って言ってるの。妹に好きな相手を譲れない? そんなの当たり前のことでしょうが。そんなことをわざわざ宣言しなければ理解できない馬鹿な妹だと思われていたわけね、私は」
「え、や、ちが、そうじゃなくて」
慌てて手を振る姉が、いつもの姉に戻る。
はーあ、とわざとらしく溜息をつくと、
「それでいいんじゃないの、お姉ちゃんは」
きっと自分は今、すごく柔らかい表情をしているに違いない、そう思った。が、それには気づいていながら、「お姉ちゃん」と呼んだことに気づいていないのが相変わらず郁乃らしいと言えばらしかった。
もちろん、愛佳の動きが止まったことがそのことに由来するのだなんて、考えもつかない。
「それでいいと思う。だからもちろん ——」
さすがに勇気が必要だ。そう思うと姉は凄いな、と素直に感心した。
大きく深呼吸をする。
顔の赤みは更にひどくなっていることだろう。
それでも、これほどの勇気を出して自分に言った姉に、こちらもちゃんと返礼してあげないといけない。

「わ……私だって譲るつもり、ないし」

「ん? 貴明、今日は病院なのか」
いそいそと帰り支度を始めた幼馴染を見て、こちらもさっさと帰宅態勢に入った雄二が声をかける。
「ああ、今日は絶対に来て欲しいって、まな……小牧さんが言ってたから」
こいつはまだ隠し通せてる気でいやがる。雄二は呆れると同時に感心した。今更言い直す必要があるとは思えない。クラスではそれなりに気をつけているつもりなのだろうが、雄二と2人の時は頻繁に「愛佳」という呼び方が出てくる。いちいち突っ込むのもあほらしいのでしていないが。
なので今日も紳士的にスルーした。
「郁乃ちゃんの手術、終わったんだろ。だからか?」
「さあ。それだったら最初から俺も行くつもりだったし、そのことは2人ともわかっていると思ってたんだけどな。わざわざ来いって言われるのは……何だろうな」
「そりゃお前、アレだろうよ」
「アレ?」
真顔で聞き返してくる貴明に、雄二としては苦笑するしかない。

こりゃもう、天然記念物級ってよりは絶滅危惧種級って言った方が良くはないだろうか。このみの「ねぇ、タカくん」の一言だけで、後に続く言葉が「お腹空いた」か「遊びに連れて行って」なのかを判断できてしまうほどの鋭さを見せるかと思えば、自分のことになるとこれだ。
しかしまあ、よく考えてみれば貴明が他人のことについて鋭敏さを見せるのは、自分かこのみ、もしくは環が怒っているかどうかの時くらいだ。特にこのみのことになると環以上に鋭くなるのはやはり過ごしている時間の長さか。
いずれにしても、こりゃいいんちょも郁乃ちゃんも大変だな。
このみの一言ですべてを察している貴明に、不機嫌そうな表情をする愛佳や郁乃という図(もちろん、郁乃の顔は知らないけれども、そこは妄想で補完した)を思い浮かべ、そう遠くない未来の貴明に同情と嫉妬を送ってやる。
「雄二、アレって何のことだよ」
「んん? ああ、まあアレって言やあ、アレのことだ」
「はあ?」
「ま、なんだ」
がしっと貴明の肩を掴む。僅かに顔をしかめるが無視して真顔で言い放つ。
「明日殴らせろ、な?」
「何言ってんだ、お前は。一緒に病院行っとくか?」
いつものように返しながら、それでも視線に落ち着きがない。帰り支度を急いで始めたことと言い、要するに早く愛佳や郁乃の所へ行きたいだけだ。
そんな貴明の様子に、やれやれ、と肩を竦めると、
「行かなくていいのか。時間は有限だぜ、貴明」

そうして。走って去っていく親友の後姿を見ながら、ぼそりと呟く。
「何だかんだ言って、ようやく女に興味を持ち始めたか」
うん、これも俺の教育の賜物だな、と本人が聞いたらうんざりするようなことを思う。
ついでに言えば、彼の姉が聞いたらきっとアイアンクロー確定だろう。
まあ貴明が雄二のおかげかどうかは別として、普通に女子に興味を持ったのはいいことなのではないだろうか。そりゃあ、同性愛者じゃないことは明確だったけれども、苦手だからと言っていつまでも避けていていいはずもないのだし。
一足飛びに「興味を持った」レベルではなく、雄二からしてみればどう考えても「好き」の範疇に入るってのが、どうにも今までの反動なのかと疑わざるを得ない。しかも、
「2人同時、更にそれが姉妹ってのが、何ともなあ」
あいつらしいか。
最終的にどちらかを選ぶのか、それとも3人でずっと一緒にいるつもりなのか。雄二にはわかりきった結果ではあるから、
—— やっぱ、用意しておいてやるか。
そう、「倫理なんてクソくらえ」。あまりお上品ではないけれども。

貴明に遅れること数秒、教室を出た雄二の顔には苦笑いが浮かんでいた。

桜の季節を通りすぎ、夏の風が近づいてきた。
冬服を来た期間がひどく短く感じたけれど、それは単に実際の日数の問題だけではないような気がする。
控えめな表現をすれば、「発育があまりよろしくない」自分としては、露出度の高い夏服が好きであるとはいいがたい。姉と一緒なら特に。まったく、何食べたらあんなに……って、それは言うまでもないか。

とにかく。
私はまだこれからなのだ。む、胸とかも、あれだ、もうちょっとしたら今食べてる分がきっと、アレになるのだ。多分。
……いや。
私は、ではない。
私たちは、だろう。
私たちはこれからだ。まだ何も決まっていない、決めなくてもいい時期がいつまで続くのかわからないけれど、何かが決まる前にすべてが終わってしまうかも知れないけれど、今はそれでいいのだろうと思う。
傷つくことを恐れて逃げているだけではどうにもならないけれど、だからと言って何もかもを急がなくてはならないということもない。
少なくとも今は、来週から始まる期末考査と、その後に続く夏休みの予定だけを心配していればいい。

私たちは、やっと始まったばかりなのだから。

ToHeart2 - moratorium(補)

そして彼らのモラトリアムが始まる。普通よりちょっと遅いけれど、きっとすぐに終わってしまう桜の季節みたいな。
なぜって?
この気持ちはきっと、変わらないから。だから、きっと猶予期間なんて本当は必要ないのかも知れない。

「ずっと3人でいられるといいね」

<あとがき>
どんなもんでしょうか。完全に蛇足ですが……まあ、なんていうか、その、そういうのがあってもいいかな、と。冒頭の貴明の台詞はやっぱりナシですが、とりあえず終編よりはもうちょっと彼らの関係とか気持ちとかをわかりやすくしたつもりです。
……つもりです。

そんでもって、相変わらずWeb拍手とか頂けると嬉しいです。コメントなんか貰えると更に嬉しいのもやっぱり変わりません。