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遥かに仰ぎ、麗しの

PULLTOP

Einschätzung

シナリオ=A|グラフィック=A|キャラ=A|音楽=A|総合評価=A

Überblick

はじめに

夏少女」「ゆのはな」のPULLTOPということでかなり期待していた……のに、積みゲーと化していたのはなぜだろう?

非アクティブ時動作など、最近はもう基本ですよね。但し、ムービーとか各話タイトルなどでは動作しません。セーブポイントは100箇所、絵は相変わらず藤原々々さんのは素晴らしいし、音楽も雰囲気に合っていて品のある曲が多く、素晴らしい。特筆すべきは声優の豪華さ。ゆのはがいたりほなみんがいたり。サブキャラでの友情出演の豪華さが凄いですね。

全般

新しいキャラが出てくる時の、通常なら「少女」だとか「男性」だとかで済ませるところを、「体格のいい男」→「しかも美男」→「暁というのは苗字かな?」→「暁先生と呼ばれていたよな?」→「暁先生?」と変えてくる辺り、細かいw

個別ルートが長く共通ルートが殆どないため、1シナリオに相当な時間がかかります。もちろん、それが苦痛にならず、却って「もう終りか」とまだプレイしていたい気分になるほどの良作。
他サイトのレビューなんかでもよく書かれていることですが、本校系と分校系で主人公が全く違うというのは、同意。本校系は総じていいんですが、分校系で「いやこれはどうよ?」って感じのシナリオが。

分校系では栖香、本校系では殿子とみやび、この3つが良いです。但し、殿子・みやび>>超えられない壁>>栖香、ですが。

榛葉 邑那--分校

いつも思うんだけど、どうしてこう、ギャルゲのヒロインたちは滅多に使われない名前なんだ。変換に苦労するっつの。「はしばゆうな」て打って「榛葉邑那」とは出てこないだろう、普通。

とまあ、それはそれとして、シナリオそのものはなかなかに重い展開。ありがちって言えばありがちなんだけど、進め方とかさり気ない伏線とかが重さを増加させてる。前述の邑那の座る位置といい自然と名前で呼ぶようになったことといい、プレイしているこっちが気づかないくらいに自然だったのはお見事。

邑那の方から別れを切り出したことが最初の山場ですが、これは比較的あっさりと解決。その後の、邑那がゲストである理由——財閥トップである狒々ジジイの愛玩具にされていたことや、元家庭教師の李燕玲、全てを演技で隠し通して財閥解体を狙う兄である渉などの関係と戦い——が本番のクライマックス。おっとりして被害者でしかなさそうな邑那が実は燕玲のパートナーでもあったという事実や、財閥の資産を巡る描写などはこの手の話にしては上手く描かれていたと思いますが、やはり何となく重め。

最終的には誰も不幸にならず、ハッピーエンドだからいいんですけどね。

八乙女 梓乃--本校

対人恐怖症なので、要するにそれを癒すことがこのシナリオの目的。設定からいけば非常に話の展開が読みやすいんですが、それはどんなギャルゲにも言えることで。問題はそれをどう料理してくれるかですよね。

で、梓乃シナリオですが。
さすがはPULLTOP、と言わざるを得ないですね。分校系では主人公の司のモノローグのみで進んでいたんですが、本校系のこの梓乃シナリオで梓乃視点を入れ、尚且つ対人恐怖症だけでなく、殿子を挟んだ主人公への嫉妬と憎悪という展開でくるとは。そのことをきっかけに、動機は悪い方向でありながらも対人恐怖症を結果的には治すことに繋げていくというのは予想できませんでした。

梓乃のモノローグの不穏さとは別に、どことなくコミカルな彼女の行動もいい。不穏でシリアスな口調のモノローグと、結果としてギャグになる梓乃の空回りが繰り返されていく中で、少しずつ恐怖症を治していく梓乃。気が付くと司のことを苦手としなくなっていて、それが初めての感情に繋がっていく。
家族に問題を抱えていないだけあって、終始和やかな雰囲気で進んでいくシナリオ、けれどもそれだけで済ませるはずもなく、再び湧き上がってくる黒い感情。そこを乗り越えて、ようやくかと思いきや。なかなかこのシナリオ、焦らしてくれます。

染み付いた他人への恐怖は簡単に拭えず、折角司への気持ちを確認してダンスを申し込んだというのに、今度は司の手を取れなくて悩む。それを克服してもその後に待っているのは、マラソン大会で聞いた司の境遇とその司に触れることもできない自分への苛立ちと葛藤。そして、最後の最後で司の、自分自身でもはっきりとは気づいていなかった欠陥、それに向き合う2人。

山と谷を繰り返して、2人の抱える問題を常に認識させるやり方は、ざっくりとハッピーエンド一直線で行けーっ!てな人には向かないかも知れませんが、単純で短い話が好きな私でも長く感じないほどに飽きさせないテキストと構成でした。最終的に問題をクリアするまでの部分が、そこまでじっくりと重ねてきたシナリオにしては性急だった気がしないでもないですが、なかなか涙腺の緩むシナリオだと思いますよ?

相沢 美綺--分校

永遠の義妹、安玖深音……ううむ、はぴねす!のすもものイメージが強いんですよねぇ。唯一、本校シナリオでも度々顔を出す、こいつのどこに問題があるというのかというくらいに明るい美綺。

シナリオはと言えば、邑那の時にちらっと出ていた姉妹・家同士の確執なんかが最初の山場。……うーん、はっきり言って食傷気味なんですよね、この手のハナシって。お嬢様系を連続してやっちゃいかんなあ。
司と美綺が意識しあったりくっついたりってところもどこかおざなり。軽いテンポの日常会話を心がけすぎたらそればっかりになっちゃった、みたいな。特に問題なのは、主人公のヘタレ度が高すぎる、というか主人公がとてもじゃないけど教師に思えない。サカッた高校生みたい。

美綺までが盛り始めて、収拾がつかなくところを何か違うだろ、と話し合うところが次の山場。それから鳳華半島要塞の調査、隠蔽したい風祭の妨害などなど。と言うとそれなりに山場もあって面白かったんじゃないかと思えるかも知れませんが、これがどうにもダメ。
お金持ち・養子・旧日本軍の隠し要塞・風祭家の妨害などの言葉から連想されるある程度のものは確かに描き込まれていましたが、すべてが中途半端な印象を拭いきれず。

主人公がだらしないのも減点。駄作ではありませんが、特別面白みもないシナリオでした。

仁礼 栖香--分校

最初に言っておきましょう。分校系シナリオの中ではダントツに良かったと。

異論はある……というか、ダントツに良かったと思う自分でも思うことでもあるんですが、栖香がひとりで勝手に怒っていると感じる所もいくつかありました。とは言え、それを勝手な独りよがり、決めつけに思い込みだと非難するには流石に栖香には酷だろうなあ。
美綺の実家、AIZAWAが栖香の実家である桜屋敷を買い取ろうとしているところで、(これも美綺シナリオでもありましたが)

「でもそれは親どもの話で、相沢本人とも榛葉本人とも何も関係ないじゃないか!」

これで主人公、随分価値を下げたなあ、と。そんな奇麗事で済んだら戦争はなくならないし。
親と子は違う、と言いつつやはりそれが親子である以上、虐げられた人間にとっては切っても切り離せないものであるのは、これはもう人間である限り仕方ない。自分の家族を殺した人間の子供を、「親どもの話で」なんて割り切れるわけがない。MASTER KEATONの何話かで言ってましたが、

「それがたとえ自分の子供であっても、誰かのために自分の幸福の幾分かでも犠牲にするというのは大変なこと」

逆を考えれば、どれだけ司が無神経で加害者側の立場でモノを言ったのか、ということも容易にわかりそうなものなんですけどね。

生死に関わることと、ある程度資産もあり満たされてる人間にとっての、資産の話は別だろうという考えもありますが、それも人間性をよくわかっていない考え方。一度上げてしまった生活水準を、下げることがどれだけ難しいかは一般的な人間にもわかる話なのではないでしょうかね。すごい跳んじゃいますが、日本の電力の3割は原子力発電。原子力発電は危険なものだからいくない、と言う人たちは、では残り3割の電力をどうするのかと逆に問い返された時、「3割分の電力を削減した生活を送れば良い」と簡単に言えるでしょうか。
しかも栖香にとっては、それは生まれた時からのものであって、その水準というか世界が基準になるわけですから、司の台詞など鼻で哂ってしまうことでしかないでしょう。

……と、思ったのですが、ここで栖香が鼻で哂ってしまってはシナリオが進みませんね、そりゃあ。

まあ、その辺りの司のバカっぷり・低脳さを別にすれば、分校系の中では非常に良い出来だったと思います。最後の最後まで、栖香は両親を誤解しきって勝手に考え違いをして暴走していましたけどね。

AIZAWAによる桜屋敷買収を金で解決しなかったのは良かったと思います。結局は美綺が父親を問い詰めて……って流れは変わりませんでしたが。幾らなんでも両親の対応を誤解していたのは、凄い掛け違い方だなあと思いましたが、それ以外の、2人の関係の描き方は割と丁寧で。うん、いいんじゃないでしょうか。

鷹月 殿子--本校

大佐殿。いや、何ていうかぱっと見た目がテッサにしか見えなかったものでw

さて、殿子のシナリオとかキャラクターについてですが、これはもう、一言以外には何も必要ないと思われます。

素晴らしかった。

以上。

風祭 みやび--本校

小うるさいちっこいの、のはずだったんですけど。他の、特に殿子のルートでそうでしたが、「ちょ、このちっこいの、実はかなり萌えなんじゃ?」と疑惑(?)が。

理事長代理という立場から、今まで語られなかった話も、このみやびルートで語られるのではないかと思っていたのはドンぴしゃり。どこをどう見ても問題なさそうな、それなのに本校から入ってきた本校系である三嶋鏡花のことが非常に気になっていたんですが、やはり明かされました。明かされた、んですが……あっさり終わりましたw

ただ、さすがPULLTOPと感心させられたのは、

「ではお前はここの学院生53人を残らず背負う覚悟があるというのか!?
三嶋だけじゃない!!行き場がないのはみんな同じなんだぞ!?」

「ゆのはな」で言えばなんとな〜く「ゆのは」っぽい雰囲気のみやびが言うと、ゆのはが言ったあの言葉を思い出すわけです。

冷静な目で見れば、どうってことのない、その場にあわせたただの台詞なんですが、そこへの持って行き方というか、シナリオ自体の出来は言うまでもなく演出や構成も素晴らしく人を引き込むので、ついつい感心してしまいます。

急ぎ足で2人、いやリーダをを含めて3人の仲が進展していく感じはありましたが、それすら微笑ましく「このまま何事もなく終わってくれ」と願ってしまいそうになるほど、ほのぼのとして楽しい日々。もちろん、ギャルゲにそれを求めるのは間違いなわけで、超人的に出来のいい兄姉と比較され、ようやく期待されたと思って理事長職を懸命に勤めてきたみやびに突きつけられる現実、それを乗り越えたと思ったら今度は本当に期待されて出された婚約。

相手が相手なだけに、みやびの幸せを願って婚約を後押しする司が、けれどやりきれなくなって理事長室でアルコールに頼っていたところ、やってきたリーダの叱声が降りかかる。

僕の意思にどれだけの価値がある!?
意思だけでどうにかなるほどこの世界は優しくないっ!!」

ここまで出てこなかった、けれどプレイしていれば何となく気にはなっていた、司の旧姓も出てくるリーダが依頼した調査報告書。一度手を差し伸べてしまったら、最後まで見せてないという責任が生じる。そのことを司に思い出させるリーダ。さすが本校系メインのシナリオ(と、勝手に思っている。いやだって、共通ルートの01話が『汝等此処より入りたる者』でみやびEpilogueが『そして、汝等此処より入りたる者』だし、EDのCGがゆのはEDのCGに似てるし)だけのことはあります。

みやび以外のシナリオでは、「親に無価値な玩具同様に捨てられた」事実に基づく司の抱える闇が、それほど活かされているようには思えませんでした。殿子シナリオでさえ、ともすれば単なる殿子との同族としての同情くらいに堕してしまう可能性すらあったのですが、みやびシナリオではきっちりと締めてくれましたね。

誰も見捨てない、と言いながら自分を見捨てた親と同じことを、みやびとリーダに対して繰り返そうとしている自分。虐待を受けた子供が成長すると、我が子を虐待する確率が高いそうですが、そんなところにも通じているんでしょうか。

もちろん、司はリーダの助けを借りつつも、そこから這い上がるのでご心配なく。

まとめ・本校系

断然、こちらの方がいいです。

特に、感動の余り一言で済ませてしまった殿子シナリオでの、

困難に際して諦めるから自由にならない。
困難に際してなお、揺るがぬ意志と強い行動力を示し続ける。
自由というのはそのように顕されるものだったのだ。
自由とは状況や手に入れたりできるような種類のものではなかった。
ただ内から溢れてくる強い心で、示し続けるものだったのだ。

現実的に、そんなことが可能かどうか、社会に出てしまえば知ろうとする必要すらなく知らされてしまうわけですが、そこはそれ、やはりゲームですから。そしてそこへ持って行くまでのシナリオの展開の仕方、文章、演出、すべてが素晴らしい。
このシナリオの中でなければ、誰かが飲んでる時にでもそんなことを言ったら鼻で哂ってしまうような一文を、迂闊にも目から汗を流してしまいそうになるくらい、劇的に使ってくれる。この、殿子シナリオ・みやびシナリオだけならば間違いなくシナリオでSランクをつけてたんですが……いかんせん、分校系がアレすぎました。

まとめ・分校系

悪くはない、悪くはないんですよ?ただ、どうしても司の性格が同じルートでも時と場合によって、揺らぎすぎているなあと思えることや、どの話もAIZAWAや陽道グループ、仁礼家の確執を巡る話ばかりで、そんなゲームばかりをやった後だとさすがにうんざりする展開であることは確か。
司が僕っ子であることは構いませんし、本校系でもそうなのだからいいんですけど、美綺シナリオで書いたように「高校生じゃないんだからさあ」と苦笑してしまうような幼稚さを見せられるのはさすがにどうかと思います。ああ、そういう意味では王道の学園モノと言っていいかも知れませんねw

学園モノなのか財閥闘争モノなのか、どうにも釈然としないところはありますが、司の幼稚さに耐え切れば=司を教師だと思わなければ、ヒロインとくっつくまでとかは丁寧に描かれてますし、いいと思います。あー、なんていうか、割と……SS界で言うところの設定厨とかが喜びそうな気がする。うん、そんな気がするだけだけど。

その他

えてぃシーンが全部で20あるんですが。

本校系の3人で4、分校系の邑那が2……美綺と栖香で16。ええぃ、このエロ姉妹めがっw

そうそう、『エピローグ』がありますので、そちらも見ておいた方がよろしいかと。余韻を味わえる、なかなかいい追加シナリオです。短いですが。

Empfehlung

お勧め

お嬢様系としては出色の出来。流石に特殊な環境のため、学園モノとしてどうかと言われると「学園モノではない」としか言いようがありませんが。本校系はちゃんと教師やりながらヒロインの抱える問題に相対し、内因を常に確認しながら解決していきますが、分校系は外的要因が絡んでくる割合が大きいです。そのため、一粒で二度美味しいと言えばそうとも言えますが、攻略順には注意した方が良いかもですね。
お勧めも同様で、上記のどちらも楽しめますから、結構広い範囲の人を包括できる気がします。

こと本校系に限って言えばまずプレイして間違いなし、というところ。

推奨攻略順

本校系と分校系ではっきりと分かれますから、完全に割り切ってプレイするのならまずは本校と分校どちらをクリアしきってしまうかを考えないといけませんね。
キャラの内面や2人の関係そのものをじっくりと掘り下げて描き切る方が良ければ本校系、外的要因などを絡めて広く浅くがいいのであれば分校系というところです。

それぞれの中では、
本校系=【梓乃】→【殿子】→【みやび】の順、
分校系=【美綺】→【栖香】→【邑那】の順番でプレイすると良いかも知れません。

分校系・本校系を通して、まずそれなりに面白いものをやって最後に最高のものをというのであれば、
【梓乃】→【栖香】→【美綺】→【邑那】→【殿子】→【みやび】でしょうか。

殿子ではなくみやびを最後に回すのは、学院全体の抱える問題を解決できるのが理事長でもあるみやびのシナリオだけだから、という理由です。