幻想の庭〜盂蘭盆に還る魂〜
遠くから微かに盆踊りの囃子が聞こえてくる。
彼と彼女の、夏が始まり、そして終わる。
- 8月12日
- 私はこれから何処へ行けばいいのだろう。
それに答えてくれる人のいないまま、こうしてここにいる。
古い大きな屋敷と、鬱蒼と木々の生い茂る庭。
底の見えない沼を見つめる夏の日々が、始まろうとしていた。
- 8月14日
- あれは夢。
それとも、私の望み。
静まり返った沼を向こうに透かす木々の前。
夏の陽光に区切られた幻想と現実。
想いの出口は、ここにあるのだろうか。
- 8月15日
- 微かに光る。
木々の天蓋の隙間、微かに月が水面にその姿を映す。
知っていましたか。
私、あなたのことがほんとうに。
ほんとうに、大好きだったんです。
- 8月16日
- この世界に。
虚構と妄執で覆われた世界に。
真実なんてないから。
事実なんていらないから。
- 8月16日;another one
- 少しずつ。
ほんの少しずつ、ゆっくりとだけれど。
彼女はいつか、こちらへ戻ってきてくれるから。
- 8月18日
- この想いに出口はない。
けれど、あの日見た幻想を忘れない限り、私は生きていける。
幻、そうなのかも知れない。
私の胸にくすぶりつづけるこの想いもまた、幻だった。
交錯する現実と幻想を、手繰り寄せた昨日までは。
二度とここへ来ることはないだろう。
けれど、この景色を、生涯忘れない。
彼との邂逅と約束は、いつまでも私のものだから。
- 8月18日;another one
- 欲望の反対は死。
けれど、死の反対は希望。
曲がりくねったこの道を抜けて。
緑の下を、どこまでも走っていけば。
明日へと続いていくのだ。
きっと。